こんばんは。
カウンセラーの平です。
日曜日の恋愛心理学を原カウンセラーと隔週で担当しています。
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彼女は、子ども時代に自営業者であったおとうさんが倒産したために、とても貧しい暮らしをしてきました。
そのため、子どものころからコンプレックスをもつことが多かった彼女は、「お金持ちの男性と結婚したい」と思うようになりました。
同じ状況の人ならほとんどだれもが「もう二度と貧しい思いはしたくない」と思うわけですが、結婚については“安定したサラリーマン”を選ぼうとするタイプ、“相当なお金持ち”を選ぼうとするタイプの2つに大きく分かれるようです。そして、彼女はその後者であったわけです。
夢が叶い、彼女は地方の資産家の一人息子と結婚することとなりました。
彼の家はその土地の旧家で、彼女がご挨拶に行ったところ、彼のご両親もおじいさま、おばあさまも、それは優雅でゆったりとした雰囲気の人々でした。それこそ、彼女が長年、夢見ていたものだったのです。
「これで私も優雅な暮らしができる」。そう思った彼女でしたが、結婚後、待っていたのは、子ども時代に彼女を苦しめたあのコンプレックスを感じるばかりの毎日だったのです。
彼女はものがない家庭に育ちましたから、口ぐせは「もったいない」、悪くいえば“ケチ”が身についていました。
それに対し、ご主人の家族には「もったいない」などという考え方はありません。「余っているものは分け与えましょうよ」と考え、また、「まあ、かわいそう」と思えば、もしかしたらだまされているのかもしれないというときですら、ものをあげたり、買ってあげたりするのもまったく平気なのです。
あるとき、とても怪しい骨董商がおじいさまのところを訪ねてきました。そして、怪しいものを売りつけようとしたとき、美大を出ていた彼女はそれが偽物だと見破り、その骨董商をとっちめました。
が、そのあと、おじいさまにこっぴどく怒られたのは彼女のほうだったのです。「あれが偽物だということはハナから承知じゃ。たまに買っておけばほんとうにいいものが入ってきたとき、あやつは必ずわしのところに持ってきたものを‥‥」。
とにかく、ゆとりがあるというか、器が大きいというかという家族であり、そんななかで彼女の劣等感は強まるばかり‥‥。
子ども時代の彼女は「人はみんな私のことを馬鹿にする」というコンプレックスに悩まされていましたが、いま、彼女は「私がいちばん大好きな人たちから馬鹿にされているのではないか」という思いに苛まれ、やがてはご主人の愛ですら疑うようになってしまいました。
カウンセリングを受けにきた彼女に私はこう言いました。「必要なのは、あなたを傷つけたすべての人を許すことですね。それは、あなたを愛そうとした人たちの愛をぜんぶ受け取るということなのですよ」。
「みんな？」と聞き返す彼女に、私は「まず、だれを拒絶したの？」と聞きました。すると、彼女がいちばん許していなかったのは、あの倒産したおとうさんだということがわかりました。
彼女が続けてきた「コンプレックスに苦しむ」という作業は、彼女のおとうさんを理解するのにはとても役に立ちました。だって、いちばんコンプレックスを感じ、自分を責めていたのは、彼女のおとうさんだったわけですからね。
彼女はコンプレックスがあったがゆえにお金持ちになりたいと夢見ていたわけですが、じつは彼女の深層心理には「お金持ちになって、おとうさんを助けてあげたい。そして、おとうさんを馬鹿にしたみんなを見返してやりたい」、「私だけがおとうさんの味方になってあげられる」というものがあったのです。
しかしながら、彼女はそんなことはすっかり忘れ、おとうさんを嫌い、おとうさんへの愛を止めていたのですね。そのために、彼女はどんどんおとうさんと同じような環境に追いつめられていたようなのです。
その後、彼女は実家に行き、何十年ぶりかでおとうさんと対面し、“私がほんとうにしたかったこと”を涙ながらに話し、和解しました。それを、いちばん喜んでくれたのが、ご主人の家族だったのです。
「うんうん、やっぱりおまえは思ったとおりのやさしい子じゃった」とあのおじいさまにほめられたとき、彼女の自己概念は「みんなに馬鹿にされている」から「みんな、私のことを見守ってくれていたのだ」に変わりました。そのとき初めて、この家のお嫁さんになれたと思ったそうなのです。
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