こんばんは
カウンセラーの平です。
日曜日の恋愛心理学を原カウンセラーと隔週で担当しています。
私はよくセミナーなどで「あなたという存在が、だれかのよろこびになっているのです」というお話をします。
この日、ご相談におみえになった男性は40代半ばで、自分がだれかのよろこびになれるとはまったく考えられないタイプの人でした。
彼には、子どものころから心臓疾患があり、小児ぜん息にも苦しんできたという生い立ちがありました。
最近のようにステロイドなどの薬があれば小児ぜん息はそれほど恐れるべき病気ではないようですが、40年前の小児ぜん息といえば、いったん発作が起こると呼吸ができなくなり、それこそ生きるか死ぬかというようなたいへんな病気だったのです。
しかも、彼は心臓疾患をもっていたので、彼の両親は主治医から「ぜん息の発作が起こったら、命がなくなることもあると覚悟していてください」と言われていいたといいます。
ですから、彼が咳をしはじめようものなら、おかあさんは「だ、大丈夫よね! 発作じゃないよね! 大丈夫だよね!!」と血相を変えて聞いてくるほど。
彼は「この咳、ちょっとヤバいかも‥‥」と思っても、「だ、大丈夫、大丈夫」と答えるしかないのです。
それでも、結局、ぜん息の発作が起こってしまうと、おかあさんは半狂乱になり、おとうさんもまた、「ああ、もう! なんでなんだよ!」などと言い、壁を蹴ったり、ものを投げたりするということがはじまります。
そんなことが日常的にあったので、自分がだれかのよろこびになれるなどと彼が思えるはずはありません。
それどころか、「自分はおとうさんとおかあさんに心配ばかりかける存在であり、迷惑な存在であり、大好きな両親を狂わせてしまうぐらい悪い存在なのだ」という自己概念が彼の中に定着していくわけです。
この当時、学校の保健室には彼のために治療薬の吸入器が常備されていました。運動会やプール授業への参加は禁止、遠足や修学旅行にさえ行くことができなかったのです。
しかし、小児ぜん息の多くは、成長するにつれ改善していくことが多く、彼の場合も二十歳になったころにはすっかり発作が出ることはなくなっていました。
けれども、もっとも多感な時時期にネガティブな自己概念をもった彼は、健康を取り戻してからも、「人と距離をとる」、「愛する人に迷惑をかけないように、人とは深く関わらない」というパターンから抜け出すことはありませんでした。
その彼がようやく自分の人生や結婚のことを考え、意欲的になってきたのは30歳を過ぎたころのことでした。
そして、自分のことを客観的に見てみたところ、自分が自分につける点数のあまりの低さに愕然としました。
いま、流行りの“自己肯定感”があまりにも低い自分に出会ったわけですね。で、その自己肯定感をなんとか引き上げようとカウンセリングを受けにやってきたのです。
私は彼に聞きました。
「日常生活では、いつまたぜん息が起きるかわからないとビクビクしながら生きてきたんでしょうね」
「おっしゃるとおりです」
「だからこそ、発作が起こって入院していたときだけは、唯一の安らぎの時間に感じられたんじゃないかな?」
「ああ、まさにそうでした」
そう言う彼に、私はこんな宿題を出しました。
「昔、きみが入院した病院を、一度、訪ねてみたらどうだろう? ひょっとして、当時の担当の先生や看護師さんがいらっしゃるかもしれないからね」
彼が病院を訪ねてみたところ、当時、お世話になっていた看護師さんが婦長さんになっていて、もう2人、彼をよく知る看護師さんがいまも在籍していて、その3人と再会することができたそうです。
「よく生きていてくれたわね」
3人は涙を流しながら、彼の生存をよろこんでくれました。
当時、小児ぜん息と心臓疾患をもっていた子どもの8割は命をまっとうすることができず、その小さな子どもたちの看護をしていた人々は幾度もつらい思いをしていたようなのです。
目の前で流されるよろこびの涙は、もちろん嘘ではありません。
「こ、こんなおれが‥‥、だれかのよろこびになれるのか‥‥」
この再会が、彼の自己概念が大きく変化するきっかけとなったのです。
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今年も1年間、アメブロ『恋愛心理学』をご愛読いただき、ありがとうございました。
2021年が、だれにとっても安心できる、幸せな年になりますように。
引き続き、当ブログおよび神戸メンタルサービス/カウンセリングサービスをよろしくお願いいたします。


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